ステレオ録音とは、2本、もしくはそれ以上の本数のマイクを使って収音する収音技術の1つです。複数のマイクを用いて収音することで、ステレオ音像を作り出し、奥行き感や方向感を音源に与えることができます。
ステレオ録音は、オーケストラ、バンド、合唱隊、パイプオルガン、四重唱(奏)、独唱(奏)、ジャズのアンサンブル、ドラムのオーバーヘッド、ピアノの近接収音などに応用できます。
ステレオ録音には多くの異なる方式が存在しますが、最も一般的なものは以下の4種類です。
- 間隔(時間差、spaced pair) 方式 ―A/B
- 同一点(coincident) 方式 ―X-Y
- 準同一点(nearcoincident) ―X-Y
- ミッド・サイド(Mid-Side) 方式 — M-S
本記事では上記4種類のステレオ録音について、詳しく解説していきます。
間隔(時間差、spaced pair) 方式 ―A/B

間隔方式(A/B)は間隔をあけて、複数本のマイクを設置する収音方式です。一般的な手法としては2本のマイクを水平に0.9~3mほど離し、音源に対して真っ直ぐに向けます。カーディオイド(単一指向性)または無指向性のマイクを使用します。
2本のマイクの間隔は、収音する音源の物理的な大きさによって変わります。例えば、アコースティックギター1本を録音する場合にマイクの間隔を3mにすると、ステレオ音像の中央部分にだけギターが現れます。

こうした小さい楽器では、マイクを楽器にもっと近づけて、間隔も狭くしたほうが良いでしょう。
マイクの間隔が0.9mを超える場合は、実物以上に音源が左右に分かれているように誇張される傾向があります。一方、マイクの間隔が3mになると、音源全体をよくカバーするようになりますが、中央を外れた音源の音像はぼやける傾向があります。
3本のマイクを使用する場合は、水平に数mほど離し(1.5mごとなど)、音源に対して真っ直ぐに向けます。中央のマイクの信号は左右のチャンネルと同じレベルで分岐します。

3本のマイクを使用すると、2本のマイクを使った間隔方式に比べて、定位(音源方向の定まり方)が改善します。
間隔方式の欠点は位相キャンセルが発生する可能性があることです。マイクの間隔が広い場合、それぞれのマイクへの音の到達時間に差が生じ、位相キャンセルが起こる原因となります。
【位相キャンセル】 同一の音源を距離が異なる複数本のマイクで収音する際に、音の打ち消し合いが生じる現象
そのため、基準となるモノラルの音源を使って、位相キャンセルをチェックするのが望ましいです。収音したステレオ信号をモノラルにミックスしてみて、いくつかの周波数が大きくなったり、小さくなったりした場合は位相キャンセルがあると考えられます。
録音したものが、放送などモノラルで使われることが多い場合、位相キャンセルは深刻な問題となるため注意が必要です。
同一点(coincident) 方式―X-Y

同一点方式はマイクの振動板(ダイヤフラム)が垂直に並ぶように2本のマイクを近接させて、一定の角度(135°など)に開いて収音する方式です。カーディオイドの指向性を持つ同型のマイクを2本使用します。
同一点方式で収音した音源は、音の広がり感が狭くなる傾向にあり、左右のスピーカーの間全体に再生音が広がらない場合があります。
一方、定位感に優れており、モノラルとの互換性についても優秀なため、ステレオの左右の信号をミックスしてモノラルにした場合も問題が生じにくいメリットがあります。
準同一点(nearcoincident)方式―X-Y

準同一点方式はマイクの振動板(ダイヤフラム)同士を15cm~30cm離して、2本のマイクを一定の角度に開いて収音する方式です。カーディオイドの指向性を持つ同型のマイクを2本使用します。
設置例として、マイクを17cm離して、110°に開いた状態で収音します。準同一点方式で収音すると、方向定位感が正確になる傾向があり、モノラルとの互換性も良好です。
ミッド・サイド(Mid-Side) 方式 — M-S

ミッド・サイド方式は、カーディオイド(単一指向性)のマイクを正面(Mid)に、双指向性のマイクを側面(Side)に向けて単一の筐体に収納し、正面のマイクで軸上の音を、側面のマイクで軸外の音を収音する方式です。
それぞれの出力信号をマトリクス回路でミックスし、左チャンネルおよび右チャンネル用の出力を取り出します。正面の信号に対する側面の信号のレベルを調整することによって、マイクを動かさずとも、広がり感を調整することができます。
ミッド・サイド方式は音の広がり感が良く、方向定位感も優秀です。また、完全なモノラル互換性があるため、放送や映画でよく使用されています。
(参考)ステレオ収音方式表

ステレオ録音に適したおすすめマイク
FULL-TENのベテランスタッフが、ステレオ録音におすすめマイクについてご紹介します。
BEHRINGER【C-2】コンデンサーマイク ステレオペア
形式 | コンデンサー型 |
指向特性 | カーディオイド |
周波数特性 | 20Hz~20kHz |
開回路感度 | -41dBV (0dBV=1V/Pa) |
インピーダンス | 100Ω |
端子 | XLR3ピン(金メッキ)、オス |
寸法(φ×全長) | 20×94mm |
質量 | 約450g |
付属品 | マイクホルダー(3/8インチ→5/8インチ変換ねじ付)×2 ウインドスクリーン×2 ステレオバー(3/8インチねじ付)×1 キャリングケース×1 |
BEHRINGERによるコスパに優れた定番マイクペアセットがこちらの C-2 です。長さ約94mmのコンパクトなボディーでありながらも、本格的なステレオ収音を実現します。
極めて広い周波数特性と優れた再現性を実現した小型ダイアフラムを採用。ドラムのオーバーヘッドやピアノ、アコースティックギターの録音に最適なだけでなく、メインのマイクと組み合わせて使用することで、サウンドのエアー感をグレードアップさせる使い方もオススメです。
AKG【C451 B/ST】
形式 | コンデンサー型 |
指向特性 | カーディオイド |
周波数特性 | 20Hz~20kHz |
開回路感度 | ー41dB re 1V/Pa |
インピーダンス | 200Ω以下 |
端子 | XLR(3P) |
寸法(φ×H) | 19×160mm |
質量 | 130g |
セット内容 | C451 B×2 マイクホルダー(SA60)×2 ウインドスクリーン(W90)×2 ステレオアーム(H50) 特性データシート×2 キャリングハードケース |
厳密にマッチングを行ったステレオペアセット C451 B/ST。優れた音響性能と高い耐久性を兼ね備えた、AKGによる楽器用マイクの世界標準「C451 B」をステレオ録音向けにペアセットにした製品です。
優れた過渡特性を備えた極小のダイヤフラムを搭載し、ハイハット、ドラムのトップ、アコースティックギターなどの立ち上がりの鋭いサウンドの録音に適しています。
また、2本同時にマイクを設置できるステレオアームが付属しており、1本のマイクスタンドで手軽にステレオ録音用の配置にセットできます。
DPA【ST4006A】
カートリッジ | プリポラライズド・コンデンサー型 |
指向特性 | 無指向性 |
有効周波数レンジ(±2dB) | 20Hz~20kHz |
アッテネータースイッチ | ー40dB/-20dB |
インピーダンス | 200Ω |
端子 | XLR3 ピン(オス) |
最大音圧レベル(THD10%) | 146dB SPL peak |
寸法(φ×H) | φ19×169mm |
質量(単体) | 約165g |
セット内容 | 無向性マイクロホン(4006A)×2 マイクホルダ×2 キャリングケース×1 ウインドスクリーン×2 クローズマイキンググリッド・シルバー(DD0254)×2 ディフューズフィールドグリッド・ブラック(DD0297)×2 フリーフィールドグリッド・シルバー(DD0251)×2 |
自然で透明感のある音質を獲得する無指向性マイクロホン 4006Aを綿密にステレオマッチングしたステレオキット DPA / ST4006A。周波数特性と感度の差が±0.5 dB以内で、なおかつ位相差が5°以内の2本をマッチングさせました。
ナチュラルなサウンド、高感度、低ノイズフロア、10Hz~20kHz(±2dB) 間の真にフラットな音響特性を提供。ABステレオレコーディングに完璧にフィットするマイクです。